前回の記事で、
村上春樹さんの小説と芦屋についてちょっと書いたので、
今日もその流れで。
その春樹さんのデビュー小説の「風の歌を聴け」は、
映画にもなっている。
もともと原作の小説では地名は全く出てこないのだけれど、
舞台となる街は昔の芦屋や神戸の街がモデルだし、
加えて、
映画版監督の大森一樹さんが同じ芦屋出身でもあるからだろう、
映画にはロケ地として実際の芦屋や神戸が多く使われている。
前の記事では、
「小説に知っている場所が出てくると嬉しい」と書いたけれど、
映画も、馴染み深い知っている場所が映っていると、
やっばり同じように嬉しい。
で、その映画版「風の歌を聴け」。
原作では「ホテルのプール」とされているシーンに、
「芦屋市民ブール」(現在の朝日ヶ丘公園プール)が、
ロケ地に使われていた。
8月16日の記事にも書いたように、
芦屋の浜手で暮らした子ども時代の夏、
大人同伴が必要なチビッコの頃には、
近所の神戸銀行のプールなどに行っていた。
けれど、
小学校も4年生くらいになってくるともう、
学校の友達とだけで泳ぎに行きたくなる。
で、学校のプール以外で、
友達と子供だけで行った初めてのプールが、
おそらく、
「芦屋市民プール」だ。
「市民」と名のつく公営のプールなら、
母親もなんとなく印象で安心して、
行かせてくれたんじゃないかと思う。
芦屋市民ブールは山の手にあって、
最初の頃は歩いて行ってたように思う。
坂道をどんどん上っていくので、
今ではとてもじゃないが、
あの夏の盛りに、
あんな場所まで歩く気にはなれないけれど、
そこは子ども、
友達とわーわー遊びながら行けば、
"へっちゃらけー"だったのだろう。
その、
市民ブールの中での記憶として良く憶えているのが、
スナック菓子の「カール」。
売店で「カール」(僕はおそらくカレー味)と、
何かジュース(きっと「ファンタ」だとか「チェリオ」だとか)を買って、
プールサイドのコンクリートの上にタオルを広げ、
その上に寝っ転がって友達と並んで
ムシャムシャと「カール」を食べていたのを、
どういうわけかとても印象的に憶えている。
おそらくかなり「おいしウレシ」かったんだろう。
キラキラとした熱い日差しと、
体からしたたった水でおこるコンクリートの匂いと、
水に入りすぎた後になる目の前が少し白くかすんだ感覚と、
カールの口に入った時のパサパサ感。
今でもその時の感じをはっきり思い出せる。
そして、
次に強い記憶として憶えているのが、
泳ぎ終えて市民プールから出たあとに食べた、
「おでん」。
今でもあるのかどうか知らないが、
市民プールの入り口の正面に、
テーブルも備えた飲食もできる小さな売店があって、
そこで「おでん」が売っていたのだ。
大人と一緒にプールに行くと、時折り、
「ちょっと水からあがって休憩しなさい」と言われるところを、
子どもだけだと、とことんプールに入りまくって、
気が付けば唇がちょっと紫になって体も冷えて。
そこへ口にする熱いおでんはとにかく最高に美味しかった。
「真夏の暑い中でも熱いおでんがこんなに美味しいんだー」、
ということを始めて知った経験でもあった。
今ならば、絶対に、
ビールを注文している。
やがて、少し大きくなると、夏のブールは、
友達と自転車で行く甲子園の「阪神パーク」に代わり、
さらにもう少し大きくなると、
「新しい時代のプール」といった感じの、
巨大な滑り台と波のおこるプールを備えた、
深江浜の「新神戸大プール」に行くようになり、
あまりにも普通の「市民プール」には行かなくなってしまう。
けれど、
20才を少し超えた頃に一度だけ、
その「芦屋市民プール」に行った憶えがある。
今となっては、
誰と何のために行ったのかさっぱり忘れてしまったし、
どう過ごしたのかもほとんど憶えていない。
ただ、1つだけ印象的に憶えていることがある。
プールサイドの僕が寝っ転がって日光浴をしている近くに、
カラフルな水着を着た若い女性が2人うつぶせで並んで寝ていた。
おそらく、年齢は僕よりも少し上くらい。
2人は1つのウォークマン(もしくはウオークマンもどきのプレーヤー)
から出ている1つのイアホンを、
左右1つずつを仲良く分けてそれぞれ片耳にさしていた。
そして2人は、
そのテープレコーダーで再生されている曲にあわせて、
(もちろんそれを確認したわけではないのだけれど、
おそらくきっと十中八九流れている曲と同じ歌を)
一緒に歌っていた。
それは、「ムーンライト・サーファー」という曲。
もともとは70年代の終わりに石川セリが歌っていた曲で、
けれど、もう80年を数年超えていたし、場所も関西だし、
彼女たちがテープで聴いていたのは、
おそらくその頃に出ていた、
桑名晴子のバージョンではないかと勝手に思う。
僕は夏の日差しを浴びてねっころがり、
何気ないふりをしながらもちょっとそちらを気にしつつ。
されど聞き耳など立てなくても自然に耳に入ってくる、
女性2人の小さな歌い声と、
たまにおこる嬉しそうな笑い声。
♪ Surfer in the moonlight moonlight moonlight
Surfer in the moonlight moonlight moonlight
Surfer in the moonlight moonlight moonlight surfer ♪
とても心地良かったのをよく憶えている。
そんなこんなです。