買ってからもう1年半くらいたってしまったけれど、
ようやく最近読み進めている、この本。
「Mac世代におくるレイアウト術」というサブタイトルがついているが、
「パソコン(Mac)を使ってデザインをするテクニックを教えた指南書」ではない。
むしろその逆で、
まだ手作業でデザインのレイアウトをしていた時代の、
「雑誌が出来上がっていく過程」を、
当時の手書きの指定用紙や、
実際に仕上がった誌面をそのまま紹介しながら、
その頃を知らない「最初からパソコンでデザインをしている世代」に、
「当時のマインドや、今にも使えるヒント」みたいなものを伝えている本である。
間違いなく、そういう趣旨でもあるんだろうけれど、
デザイン関係で無い人でも、
興味がある人には読めば充分に面白い本だと思う。
著者の新谷雅弘さんは、
「an・an」「ポパイ」「ブルータス」「オリーブ」「鳩よ!」などで、
デザイナーとして誌面デザインを作ってきた人だ。
「an・an」はそもそも堀内誠一さんという有名なデザイナーさんを、
アートディレクター(デザイン全体を統括する立場)に迎えて始まった雑誌で、
そのもとでスタッフとして関わり、
「ポパイ」「ブルータス」「オリーブ」は創刊号だけ堀内誠一さんで、
そのあとの号のアートディレクターを務めたのが、
新谷雅弘さんだったそうだ。
堀内誠一さんの名前は知っていたが、
新谷雅弘さんの名前は初めて知った。
僕らが若いころに「面白いなー」と思っていた、
マガジンハウスが出していたこれらの雑誌の当時のほとんどが、
この方が全体をアートディレクションしていたことになる。
「ポパイ」が始まった頃は僕は高校生で、
なんだかそれまでには無かったような雑誌だった。
毎号買うようなことはできなかったけれど、
書店で見かけるとチェックしたり立ち読みもしたり、
「ギターの特集」「60年代の特集」「創刊1周年特集」などの時は買ったり。
(「60年代の特集」と「創刊1周年特集」は今でもあるはずだ)
「ブルータス」は「ポパイ」の4年後に創刊されて、
もう少し大人がターゲットで、こちらは特集がシブかった。
映画や写真など文化的なことも多く取り上げていた。
友人などは毎号買って下宿の部屋の押し入れの中に並べたりしていて、
そこでパラパラと見せてもらったりしたものだ。
そのあとに出た「オリーブ」は女の子の雑誌だったけれど、
やはり見るからに「ポパイ」と「ブルータス」の流れの雑誌で、
たしか、創刊号は買ったように思う。
だからまず、そのあたりのことで、
僕などはこの「デザインにルールはない」を見ていると、
それだけで懐かしい。
載っている記事ばかりではなく、
全体の感じというか、空気感も含めて。
同世代でそう感じる人もきっと多いんじゃないかと思う。
で、
次に、
「昔、何らかの形でデザインや印刷などに関わったことがある」、
この人たちが見てもウレシイんじゃないかと。
今のようにデザインにパソコンが使われる前の、
手作業でレイアウトしていた頃の印刷の指定などが載っているので、
「そうそう、やったやったーこうやって指定して、やったなー」
なんてちょっとウレシクなれる。
レイアウト用紙に直接指定したり、
版下の上にトレペを貼ってそこに指定をしたり。
赤ペンでガシガシと指定を書いていく。
たとえば、
なんて指定おけば、(アレッ? BはBlとしてたっけ? Kにしてたっけ?)
印刷所を通ってこの色になって仕上がってくる。
↓
指定は、
素人が見ても何が書かれているのか解らず、
「専門家の仕事」という感じがする。
今は、
パソコンを使ってほぼ全て仕上がりと同じイメージで出来るので、
作業をしているところを部外者が見ても、
「特別な感じ」が昔ほどしないかもしれない。
「へぇー、ここで作ってるのかー、へー」くらいかな。
そんな風に、
手作業レイアウト時代に現場でしていたことが、
この本の中に閉じ込められている。
僕も、25年ほど前、
まだ作業がパソコン化されていない時代に、
ギリギリ間に合ってほんの少しの期間、
グラフィックデザインにかかわって走り回ったので、
この本を読んでいるとそのあたりがちょっとナツカシウレシイ。
そして、
次は「世代」や「デザインの仕事」に限らないことなんだけれど、
「読み物」としても結構面白いのだ。
「かつての人気雑誌のデザインスタッフの現場の話」としても、
「一線のプロがものを作っていく過程のアレコレ心得たことの話」としても、
いろんな風に読めて面白い。
それぞれの事柄を説明しながら、
そういったことが折々と混ざりなから説明文で書かれている。
そして、
さらに、
掲載されている当時の誌面の中身の方も、
大きく掲載されているものはそのまま読めてしまう。
内容的に昔のものになるが、
それに関係なく「へーっ」なんて充分読めてしまうものもあるし、
そこに書かれているものごとを、
アタマの中で「今」に置き換えていろいろ思索することも可能だ。
そして、
当時のそれらの表現方法から、
写真として掲載されているファッションにいたるまで、
もし若い世代がみれば新鮮にカッコよく感じるものが、
沢山あるような気がする。
今、10代20代のコで、
例えば、ファッションやその他のことでも、
同世代のコたちが絶対にしていないような事をしたくて、
敏感にアンテナを張っていて、
すぐに自分のオリジナルな何かに取り入れたいようなコには、
この本は「宝の山」のように見えるんじゃないかと、
そんなことも思ったりする。
こんな風に、
一度で「3.4度ほどおいしい」、
そんな本じゃないかと読みながら思っている。
ま、とにかく、
この本は情報量が多い。
うーん、こういう形はウェブではできないなー。
本の画面のありとあらゆる所に、
ありとあらゆる形でいろんな要素が入りまくっている。
その画面の中にさらに、
当時作り込まれた昔の雑誌の誌面が入れ子になって載っている。
思い切り、込み入った作りになっているのに、
それを感じさせなくて、読んでいてもイヤにならない。
さすがにあの人気雑誌たちを裏でささえたデザイナーさんだ。
おまけに本だから、
パッパッとページを瞬時に前後左右縦横無尽にめくって、
いろんな風にいろんな角度とパターンでザクザク見ることもできる。
「紙の媒体のすばらしさ」を改めて認識しながら読んでいる一冊。
そして、
それ以外のことからでも最近考えている、
「目だけでなく、手を動かして、自分で手をかけて、ちゃんとアタマでする事の良さ」をまたまたさらに思ったりした、
そんな一冊です。
さて、
まぁそんなこんなを思いつつもしつつも、
これもやらないと。
確定申告。
そんなこんなです。