ウチの近所には、
手作りピザのお店があって、
そこは結構流行っていて、
休日になると外で人が並んで待っていたりする。
たしかにそこのヒザは美味しい。
僕は今まで一度だけ、
食べに入ったことがある。
そのお店がオープンしてそれほどたっていない、
2005年の終わり頃のコトだ。
その当時、
僕のマンションの同じ階に、
一人の女性が住んでいた。
カノジョは2000年頃に引っ越してきて、
たびたび外で出くわしたりして、
たまに少し話をしたりしていたコだった。
その経緯は省略するがカノジョとはたまにメールのやりとりをしていて、
その頃のカノジョのメールに、
「ピザ屋ができたねー。機会があればご一緒に〜」と書かれてあった。
僕はどちらかというと男であれ女であれ、
「よかったら行きましょう」とハッキリ誘ってもらえる方が好みなので、
多少のオンナゴゴロ的な期待も含まれているかも知れないと感じてはいたけれど、
カノジョのメールの軽さに合わせ「うん、機会があったらね〜」と、
軽く返していた。
ある日、
スーパーに買い物に行こうと外に出てマンションから道に出たら、
「プッ」とクラクションの音がした。
おやっ?と思って駐車場に目を向けると、
カノジョが車の中で携帯を手にモゾモゾと体を動かしていた。
クラクションで合図をしてくれたのか、
たまたま体がクラクションに当たったのか、
それは解らなかったけれどとりあえず挨拶しようと近づいた。
カノジョはニコッとしながら車から出てきたので「何してんの?」と聴くと、
「おかあさんにメールしててん」とあわてたように言った。
ふとカノジョのメールを思い出して、
その最近出来たピザ屋に話を振った。
するとカノジョは「フラワーアレンジメントの先生があそこ美味しいって」
と言った。
「おいしいお店」が大好きな僕は、
瞬時に"食べに行きたいなぁ"と思った。
こういう場合はもちょっと慎重にした方がいいかもと思いながらも、
「一緒に行こうか?」と僕は口にしていた。
するとカノジョは、
「冗談か?!」と大きな声で言った。
その反応に少しとまどいつつ、
僕は「気のいいニイチャン」みたいにアタマかきながら、
「いや、冗談じゃないけどやなぁ」と言うと
カノジョはウレシそうに「行く!」と言った。
ちょっと申し訳ないキモチになりながら、
僕は階段を駆け上がっていくカノジョの後ろ姿を見送った。
いや、ここでは、
男と女の物語を書きたい訳ではない。
もっと別の「ご縁の不思議な可能性」について書きたいのだ。
だから、
その後の細かいことは、
ここでははしょって話を先に進める。
とにかく、
そんな経緯があって、
その数日後に僕はカノジョとそのピザ屋に、
晩ご飯として食べに行った。
ピザを食べてビールを飲みながら、
いろいろと話はしたけれど、
カノジョが「そろそろ結婚のこと考えてるねん」と口にしたとき、
僕は「カレシとはどうなっているの?」と、
あえてムリヤリ話をそちらに向けた。
カノジョとカレシのコトについてもここでは省略するけれど、
そこから話のメインはそれが中心になり、
その会話の中で僕はどういう流れだったかは忘れたが、
自分のかつての恋の話を自然に口にしていた。
それは、
昔、僕が大阪で働いていた頃の話だ。
当時、
片想いをしていた女性に思い切って「つきあって欲しい」と告白をしたが、
それ以降いつまで経ってもその女性から、
ちゃんとした「いい」「ダメ」どちらの返事をしてもらえず、
「そのうちに、だんだんとハラが立ってきてさ、それで終わった」
なんてそんな話だった。
その話をしている時、
カノジョはなんだか興味深そうに聴いていた。
で、ひととおり話を済ませてから、
僕はふと思いだしたように、
少し冗談っぽくこう言った。
「でも、今思えば、そのコ、ちょっとアヤシイかってんよ」と。
すると、
カノジョは、
少し妙な反応をした。
ちょっと苦笑いのような顔をしながら少しうつむき加減に、
「今思ったらアヤシイ…」
「アヤシイ…」と、
小さな声で2回、斜め下の空中をみつめながら、
独り言のように繰り返したのだ。
僕は「おや?」と思った。
何故、
カノジョはそんな風につぶやいたのだろう?
もともとそのカノジョは当時の僕のアタマから見れば時々、
「おや?」というナゾな反応をするコだったので、
その後しばらくはそれはただ単なる、
「いつも通りの、よくワカンナイ反応」と思っていた。
だけど、
しばらくして僕はさらにこんなコトを考えた。
もしも、
カノジョが、
人から見て、もしくは自分自身でさえも、
「アヤシイ」と思われるコトをしていたらどうなんだろう?
それで、
僕の「アヤシイ」というコトバが、
カノジョの心にささってしまったのではないかと。
そんな2つの推測が、
その当時、
僕の心の中にあった。
さて、
もう少し時間が経ってからのことだ。
ある時ふと、
別の場所での知り合いとのやりとりをヒントに、
こんなコトを思いついた。
3つ目の推測。
これは少し突飛で、
確率的にはとても低いことだ。
もし神さまがホントのコトを知っていて、
これが間違いであっとしたならば、
「あははは、そんなん、ナイナイ、妄想しすぎ、笑える笑える」
と言うかもしれない。
けど、
「なーんか偶然による妙なご縁がある」という星が、
比較的強めにある僕だということを今は自覚しているので、
もしかしたらあるんじゃないかと思っている。
それは、こういう推測だ。
カノジョは、
実は、
僕が「昔好きだったその女性」を知っていて、
昔に同じようなコトをしていた。
もしくは、
その時点で同じようなコトをしていた。
(もしかしてこの近隣に住んでいる?ということも含めて)
という推測だ。
僕としては、
これが一番納得がいく。
これならば、
僕が昔好きだったその女性のコトを「アヤシイ」と言ったことが、
カノジョに対しても「アヤシイ」と言ったことになる。
そして、
実際に「アヤシイ」だったとしてもカノジョの心にヒットするだろうし、
逆に、別に「アヤシイ」でなくても、
結果的に間接的にカノジョに対して「アヤシイ」と言ってしまったコトになるので、
やっぱりカノジョの心にささってしまうだろう。
どっちの場合でも、
納得がいくのだ。
そうして、
カノジョのようなタイプなら、
そう言ってしまった僕には、
もう何も言えなくなってしまうだろう。
何にせよ、
3つの推測の内の1つのどれかが真実だと思うが、
今となっては本当のコトは知るすべも無い。
数年後カノジョはこのマンションを出て行った。
また、仮に今カノジョと話をする機会があったとしても、
それは「申し訳ない」と思って聴かないんじゃないだろうか、
僕は。
けれど、
それはそれとして、
確率的には一番低いとしても、
どこかで神さまが「ちゃうってー、あははアホやー」と言っていたとしても、
僕はその最後の3つ目の推測が一番イイんじゃないかと思っている。
そう、
競馬をしていた頃も、
どちらかというと「大穴ねらい」の僕だったから、
真実がどうであれ、
いや真実がどのみち解らないからこそ、
その推測にベットして(賭けて)おこうと思う。
それっくらいに、
人の「ご縁」とか「つながり」は、
不思議なものなのだから。
そして、
当たっていようと当たっていまいと、
「そういう推察が出来る」というコト自体が、
神さまが僕に与えてくれた大切なものなのかもしれないから。
さて、
余談だけれど、
カノジョにその「昔好きだったその女性」の話をした際に、
「このことを付け加えておけばヨカッタなぁ」と、
後になってずっと思っていることがある。
それは、
「確かに、
その好きだった女性にちゃんとどちらの返事をもらえずに、
少し残念だったしハラもたったけれど、
けれど、今にして思えばね、
結果的にダメだったけれども、
そうやって好きな相手に勇気を出してプライドも捨てて思い切って、
ちゃんと自分のキモチを伝えておいてヨカッタなぁと、
ホントにそう思う、
自分にとって。
その時の自分がとてもいとおしい。
そして、
そうやって自分で切り開こうとすることは、
人生ではダイジなのかもしれないなぁ、
と、ちょっと思う」
ということだ。
何故なら、
カノジョはおそらく普段ポンポンと勢いよくしているくせに、
イザとなるといつも素直に思い切ったことが自分からは、
結局踏み出せないタイプじゃなかったかと、
そう思うからだ。
だから、
それをちゃんと付け加えてカノジョに伝えてあげられなかったのが、
少し心残りな気もする。
最後にもう1つ余談を。
そのピザ屋のある場所というのは、
今から10年くらい前、
よく歩道につながれていて僕がとても好きで、
前を通るたびにアタマをなでたり遊んだりした、
「シロ」という名の犬がいた家のあったところだ。
「シロ」を飼っていたお家が引っ越して数年後、
そこにピザ屋が出来た。
何にしても、
出会いと縁は異なモノだと、
ほんとうに思う。
あちらとこちら。
あそことそこと。
そんなこんなです。