1990年代の前半から後半にかけて、
僕はCD-ROMの作品作りの仕事でよく東京に行っていた。
その作品作りでお付き合いしていた会社のからみで、
リュウタロウさんというミュージシャンの人と、
その奥さんであるデザイナーのジュンコさんとの、
まだ結婚して間がない夫婦と仲良くなって、
当時二人が住んでいた目黒の近くだったかのマンションに、
何度か泊まりがけで遊びに行ったことがある。
二人はいつも僕を歓迎してくれて、
インスタントのイカスミソースでスパゲティを作り、
みんなで真っ黒な歯を見せ合って笑いながらワインを飲んだり、
深夜に屋上で並んで座ってアイスクリームを食べたりして、
まるで子供たちのようにして遊んだ。
それから、
家には「カミング」と「ゴーイング」と名付けられたネコがいて、
どっちがどうだったかは忘れたけれど、
僕がカバンを椅子に置いていたら、
「ここはワタシの場所なんだけど〜」とニャーニャーとジュンコさんに訴えたり、
夜リビングに敷いてくれた布団に寝ていたら、
急にずっしりと重たくなったので見ると、
どちらかが僕の上で寝ていたりした。
そんな和んだ感じが良くて夫婦の家に行くのが好きだったのだけれど、
三人で夜遅くまでいろんな話をするのもタノシかった。
あるとき、
なぜだか忘れたけれど、
ジーンズの話になった。
リュウタロウさんいわく、
「ジーンズを洗うのは邪道だ。
ジーンズは洗わずにがんがん履いて履いて、
臭くなってもはくんだよ」
リュウタロウさんは当時いつも、
いかにもミュージシャンっぽい黒くでスリムなジーンズを履いていた。
そしてベットに脱ぎ捨ててある黒いジーンズを指さして、
力強く言った。
「あれなんか、買ってからぜんぜん洗ってないよ!」と。
すると、
ヨコにいたジュンコさんが、
スラッとこう言った。
「え? あれ、洗ったよ」
「え〜!? 洗ったの〜!?」、
と、
リュウタロウさん。
笑った。
時に、
「男」のこだわりは、
「女」にとっては、
「どうでもいいじゃん、そんなの」だったりすることがある。
もちろん、
逆もあるんだけどね。
そんなこんなです。